●頑張れ! その2
親がいつから親になるかといえば、当たり前にも子供が生まれたその時点からである。誰しも親としての経験を持って生まれてきた人はいない。みんな手探りで親になるための努力を始める。子供は小さくてかわいくて生意気で言うことを聞かない、天使であり悪魔でもある。子供が一歳になってようやく親も一年生。少しづつ少しづつ親になっていく。世間では当たり前のように言われても、それぞれに事情を抱えている。子育てについて口うるさく小言を言う姑のいる人、夫婦二人暮らしで子育ては全部任したと仕事に逃げ込む夫をもつ人、夫婦で子供に振り回されどうしていいか分からずにおろおろする人。生真面目に親をやり、そして疲れて、ついには子供にあたりはじめる。この頃新聞をにぎわす虐待も、その多くは最初からいじめ通してきた親は少なく、一生懸命がプツンと切れたときに始まるのだろう。頑張ってる人に「頑張れ」という無神経な人がとても嫌いだ。頑張ってるから、きちんとやろうとしてるから、どうしようもなくて子供を殴りけがさせている親の気持ちも知らずに、簡単に「頑張れ」と言わないでほしい。
あるお母さんが娘を虐待していた。ちょっと押したつもりが壁に頭をぶつけて、鼻から血を出して娘は動かない。「殺してしまったんだろうか、私もワイドショーで取り上げられるんだろうか」そんな思いが頭をよぎったそうだ。もうどうなってもいいから警察を呼ぼう。そう思ってお母さんは電話をした。幸いに子供にたいしたけがはなかったが、お巡りさんがきてひどく怒られると思った。そのお巡りさんは言った「お母さん、あんた立派だよ、ちゃんとやってるもん」。その言葉でお母さんは少し立ち直った。虐待を完全にやめることができるかどうか、それは分からない。でもお巡りさんの一言でお母さんは救われた。「親でしょうが、ちゃんとやって当たり前でしょ。頑張りが足らないんだから」そんな風に言われたら、お母さんはもっともっと虐待し、娘を殺してしまったかもしれない。今、娘に手を挙げないように、それを肝に銘じて子育てに励んでいるお母さん、あなたはきっとすごく頑張ってきたんだと思います。頑張って頑張ってでも先がちっとも見えなくて、誰も助言を与えてくれなくて、怒らず叱ることを考え続けて、努力して努力して、我慢して我慢して、ある日頭の中でプツンと音がしたのをきっかけに、子供に暴力をふるい始めた。ここにいたる経過を知りもしないでお母さんを責めることを世間はしてはならない。このお巡りさんのような言葉をかけられる人に私はなりたい。